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HOME 読み物一覧 冊子「青いスピン」 作品募集 リンク お問い合わせ HOME 読み物一覧 お花見 第4号 2024年,4月号 2024/04/12 お花見 春はる名な伶れい 物語 入選作品 入選  二に段だんベッドの上段で、真ま白しろは眠ねむい目をこすった。常じょう夜や灯とうが人影ひとかげをぼんやりと浮うかび上がらせている。暗くてよく見えないが、ベッドの階段に足をかけてのぞき込こむ雪ゆき也やは、いたずらっ子らしく笑っているのだろう。「あれ、何でおまえ......。」「ねえ、お花見に行こうよ! すっごくきれいな所があるんだって。」 真白は目覚まし時計のライトをつけた。午前二時半を回った頃ころだった。「......朝になってからな。」「それじゃだめなの。兄ちゃん、起きて。」 もうひと寝ね入りしようとする真白をたたき起こして、雪也は、桜さくらを見に行こう、と言った。 春の未明はまだ肌寒はださむかった。フリース、ニット帽ぼう、マフラー。防ぼう寒かん具ぐに頼たよった。忍しのび足で部屋を出て、階段を下りて、玄関げんかんをそっと開いた。ドアベルが揺ゆれて縮ちぢみ上がったが、ベルは一切いっさい音を立てなかった。二人は顔を見合わせて笑った。 田舎いなかの夜は暗い。街灯の間隔かんかくが広く、懐かい中ちゅう電灯で照らしてもなお闇やみは濃こい。ぽつぽつと点在てんざいする家の窓まどは、全て、黒く四角い穴あなのようだ。地上と同じほど開けている空に、完全に満ちた月が浮かんでいる。その周しゅう囲いでは、負けじと星が瞬またたいている。「どこに行くんだ?」 てっきり桜並なみ木きが見られる小学校に行くのだと思ったが、雪也が足を向けたのは反対方向だった。そのうえ、街灯の光を避さけて歩こうとするので、真白は不思議に思った。「ないしょ。でも、すっごくきれいな所。」 雪也は含ふくみを持たせて笑った。 雪也がこのように笑うとき、決して口を割わらないことを知っている。小ぶりの箱を隠かくしているので、中身を尋たずねたときもそうだった。熱心にお小こ遣づかいをためているので用よう途とを聞いたときもそうだった。真白の誕たん生じょう日びにプレゼントを渡わたすまで、また、新作のゲームを手に入れるまで、雪也は口を結んでいた。 真白は目的地を知ることをあきらめて、真夜中の散歩を楽しむことにした。人が全くいない。空には星がいくつも散らされている。冷たい風が鼻をつんと痛いためつける。獣けものに鉢はち合あわせる不安はない。興奮こうふんを覚えることも胸むねが踊おどることもないが、悪くない。 雪也は暗い方、暗い方に進みたがっているようで、明かりから遠ざかるように歩けば、自然と山に近づいていく。 山の麓ふもとには寺が建っている。住じゅう職しょくのいない寺で、その荒あれた外観は昔から根も葉もないオカルト話を作ってきた。裏うら手てに捨すてられた古い墓ぼ石せきも、恐きょう怖ふを助長させるばかりだった。ふだんであれば、夜中でなくとも近づきたくない。真白よりも雪也のほうがそうだろう。雪也は怖こわがりだ。怖い話を聞いていっしょに寝てと泣きついてくるのは、いつだって雪也のほうだった。 だが、真白はこの夜、恐怖らしい恐怖を抱いだかなかった。寺の屋根が見えてきても変化はなかった。自分がそうであるのだから、雪也の背せ中なかがりんと伸のびていることも簡かん単たんに受け入れられた。 頭上では無数の星が輝かがやいている。過去かこの光を今、地球上で観測かんそくしているのは、雪也と真白のほかにいったい何人いるだろう。 寺には七段の階段がある。階段の手前に街灯が一本立っている。 下から懐中電灯で照らすと、寺の屋根と一本の老いぼれた梅の木が見えた。「雪也の嫌きらいな梅の木だ。」 真白がつぶやくと、雪也は不ふ機き嫌げんな顔で振ふり返った。「いつの話?」「去年まで、あの梅の幹みきがおじいさんの顔に見えるって泣いていただろ。」「もう泣かないよ。」「......まあ、そうだろうけど。」 雪也の行く先は真っ暗で、化け物の腹はらに飲み込まれてしまったような気持ちになるが、ひびの入ったアスファルトの道が雪也の数歩先まで続いていることははっきりと分かった。この道は寺が終点なはずなのに──。真白は辺りを見回す。右も左も、後ろさえ真っ暗で、頭上のちりのような星しか観測できない。 おとなしくついていくと、古いアスファルトの道は不意に山道に変わった。雑草ざっそうもなく、ひからびた表土がさらされている。両りょう脇わきには竹だろうか、背の高い木々が生おい茂しげっている。「どこに行くんだ?」 耐たえきれずに尋ねた。雪也は答えた。「お花見だよ。」 そういえば、風が吹ふかない。雲が動かない。獣が鳴かない。地面を踏ふむ音が立たない。人の営いとなみを感じられない。 暗く細い山道はいつまでも開けず、その間あいだ、真白は同じ質問しつもんを三度繰 くり返した。雪也の答えもその口調も全く同じだった。 一時間にも二時間にも感じたが、けんたい感や足の痛みはなかった。息も上がっていない。汗あせもかいていない。闇に向かって細く息を吐はいても、吐と息いきは白く色づかない。 不意に目を焼かれた。前方から強い光が差した。空が白しらむという前兆もなく山の背から太陽が現あらわれたかのような照らし方だった。数秒おいて目を開くと、まず雪也の顔が見えた。目をいっぱいに細めた、雪也がはしゃいでいるときの笑い方だ。次に無数の丸い光の玉が目に入った。それらはゆっくりと天へ上がっていき、ある高さに至いたると弓なりの空にぴたりと張はり付いて、そのとたんに光の玉は色を変えた。赤、青、黄、紫むらさき──。 光の玉を追って右へ左へさまよう視し線せんは、最後に、雪也の背はい後ごから差す最も大きな桃色ももいろの光を探さぐった。「ね? きれいでしょ?」 広大無辺の開けた空間に雑草はない。地面を覆おおうのは浅く張られた透明とうめいの水で、雪也のすねをぬらしている。真白の足はぬれていない。あと半歩動かせば、真白もその水の温度を知ることができる。 中心に一本の桜の木が立っている。幹が太く、樹高じゅこうは高い。直径は三メートルほどあって、高さは電柱を優ゆうに越こしている。たくましい枝えだを目いっぱい広げている。天をまっすぐに指している枝もあれば、しな垂だれている枝もある。枝先を彩いろどるのは無数の桃色の光だ。規き則そく的てきに点てん滅めつして、木こ陰かげを桃色に色づけている。 幻想的げんそうてきな景色に息をのんだ。雪也は満足そうに笑った。「兄ちゃんに見せたかったんだ。桜、好きでしょ? 僕ぼくも桜が好きなんだ。兄ちゃんと同じ理由で好きなの。去年みんなでお花見に行ったの、楽しかったよね。お父さんが飲んだくれちゃってたいへんだったけど、桜さくら餅もちを食べたり、お母さんの作ったおいなりさんを食べたりして、じいちゃんもばあちゃんもいて、すごく楽しかったよね。」 雪也は手を差し出す。「ねえ、もっと近くで見ようよ。あの桜の木ね、花びらが食べられるんだ。すっごく甘あまくておいしいの。」 これ、プレゼント──。雪也がくれたプレゼントはペンケースだった。ファスナーが壊こわれて使い物にならなくなったのを知っていて、だからこそ喜よろこぶことを確信かくしんしている、雪也が浮かべていたのはそんな表情ひょうじょうだった。 当時と全く同じ表情の雪也に手を伸ばして、真白はその手で自分の顔を覆った。「......ついていっちゃまずいよなあ。」 ため息にほとんど埋うもれた声を聞いて、雪也は目を細めて地面を見下ろした。「そっか、ここまでなのか。」 置いていかれた子こ供どものような声。しかし、大人びている。 真白ははじかれたように顔を上げた。「じゃあ、また今度にしよっか。」 雪也は予想外に明るい声を出して、満面に笑えみを広げて、「ばいばい。」と気さくに手を振った。 パチンと泡あわがはじけた。「──真白、大だい丈じょう夫ぶ? 代わるから、少し横になってきたら?」 目を開いた。隣となりに叔母おばがいて、心配そうに真白の顔をのぞき込んでいる。真白は正面を見つめた。夢ゆめうつつの境さかいを確たしかめた。「......うん、大丈夫。」 香こう炉ろの中、線香が今にも燃もえ尽つきそうだ。真白は新たな線香を手に取り、ろうそくの火にかざした。 春はる名な伶れい 2024年、第2回「青いスピン」作品募集 入選。 読み物一覧へ戻る 関連作品 2024/04/12 第2回「青いスピン」作品募集 結果発表 お知らせ カテゴリー 物語 (14) エッセー (10) 科学エッセー (4) 随筆 (5) イラストエッセー (5) ノンフィクション (4) コラム (9) お知らせ (3) 入選 (3)佳作 (2) 掲けい載さい号 第4号 2024年,4月号 第3号 2023年,9月号 第2号 2023年,4月号 創刊号 2022,9月号 創刊準備号 2022,4月号 人気の作品ランキング HOME 読み物一覧 冊子「青いスピン」 作品募集 リンク お問い合わせ プライバシーポリシー 本サイトに掲載している文章・イラスト・記事画像の無断転載を禁じます。 Copyright © 2022 by TOKYO SHOSEKI CO., LTD. All rights reserved.

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